結論:特別教育は「学科はeラーニング可・実技は原則対面」が基本形
結論から言うと、特別教育(労働安全衛生法第59条第3項)のうち学科(座学)はインターネットを介したeラーニングで実施できますが、実技は原則として対面での実施が必要です。これは、令和3年1月25日付けの厚生労働省通達「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」で示された考え方が土台になっており、その後の見直しを経て、法定の科目・時間数を満たし、講師要件や受講者の本人確認・修了確認をきちんと行うことを条件に、学科部分のオンライン実施が原則として認められています。一方で、器具の点検・装着・操作などを体で覚える実技は、対面でなければ習得したかどうかを確認できないため、eラーニングだけで完結させることはできません。どこまでオンライン化できるかは業務の性質や教材の作り込みによっても変わるため、個別の実施方法については、所轄の労働基準監督署や登録教習機関・労働安全コンサルタント等の専門家にご確認ください。
なぜ「学科はオンライン可、実技は対面」なのか(根拠と経緯)
特別教育は、危険または有害な業務に労働者を就かせる前に、事業者が業務ごとに定められた学科・実技の教育を修了させなければならないという法定の義務です(労働安全衛生法第59条第3項)。対象業務は労働安全衛生規則第36条に約49の号として列挙されており、業務ごとの学科・実技の科目と時間数は安全衛生特別教育規程(昭和47年労働省告示第92号)で定められています。
この特別教育を含む安全衛生教育について、インターネットを介したeラーニングでの実施の考え方を最初に整理したのが、令和3年1月25日付けの厚生労働省通達「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」です。この通達では、対面での集合研修でなくても、法定の範囲の科目・時間数を満たし、適切な教材を用い、受講者が本人であることの確認や、実際に最後まで受講を修了したことの確認(視聴履歴の記録・確認テストなど)をきちんと行えば、eラーニング等での実施を否定するものではないという基本的な考え方が示されました。その後、この通達は複数回見直されており、直近の改正では、特別教育の学科部分について、要件を満たせば原則としてオンラインで実施できることが明確化されています。
ただし、この考え方が及ぶのはあくまで学科部分です。実技は、器具の点検・装着・操作、機械の運転操作といった「体で覚える」内容が中心であり、受講者が実際に正しい手順で操作できているかを講師がその場で確認する必要があります。そのため、実技をeラーニングだけで完結させることは想定されておらず、事業場内や講習機関の実技会場など、対面での実施が原則です。学科と実技の両方を修了して初めて、その特別教育を受講したことになります。
学科・実技の時間数の具体例(オンライン化しても時間数は変わらない)
eラーニングで学科を実施する場合でも、業務ごとに定められた時間数そのものが短くなるわけではありません。安全衛生特別教育規程に基づく代表的な業務の時間数を並べると、次のとおりです。
| 対象業務(安衛則36条) | 学科 | 実技 | 合計 | 学科のオンライン化 |
|---|---|---|---|---|
| アーク溶接等の業務(第3号) | 11時間 | 10時間 | 21時間 | 可(実技は対面) |
| 低圧の充電電路の取扱い等の業務(第4号) | 7時間 | 7時間 | 14時間 | 可(実技は対面) |
| 高所作業車(作業床の高さ10m未満)の運転(第10号の5) | 6時間 | 3時間 | 9時間 | 可(実技は対面) |
| 玉掛け(つり上げ荷重1t未満)の業務(第19号) | 5時間 | 4時間 | 9時間 | 可(実技は対面) |
| フルハーネス型墜落制止用器具を用いた業務(第41号) | 4.5時間 | 1.5時間 | 6時間 | 可(実技は対面) |
たとえばアーク溶接等の業務であれば、学科11時間をeラーニングで受講させたとしても、実技10時間を省略することはできず、合計21時間分の教育を修了させる必要がある点は対面で実施する場合と変わりません。フルハーネス型墜落制止用器具を用いた業務のように学科4.5時間+実技1.5時間=計6時間と時間数が短い業務でも同様で、「オンラインだから時間数が減る」という制度ではない点に注意が必要です。
学科をeラーニング化することで運用しやすくなるのは、主に「教育を受けさせる場を一斉に確保しなくてよくなる」点です。たとえば低圧の充電電路の取扱い等の業務に新規で就く作業者が8名いる現場で考えると、学科7時間はオンラインで各自の都合に合わせて受講させられるため、8×7=56時間分の学科時間を集合形式で確保する必要がなくなります。ただし実技については人数分(8×7=56時間分)の対面での実施と確認が必要な点は変わりません。自社の作業者がどの業務に従事しており、それぞれ学科・実技が何時間必要かをまとめて確認したい場合は、特別教育 要否チェッカーで従事業務を選ぶと、必要な特別教育と学科・実技の時間、根拠となる号を一覧で確認できます。
自社で確認・対応する手順
特別教育をeラーニングで実施する、あるいは実施を検討する場合は、次の順番で確認すると抜け漏れが少なくなります。
- 対象業務と必要な特別教育を洗い出す:作業者がどの危険・有害業務に就いているかを確認し、労働安全衛生規則第36条のどの号に該当する特別教育が必要かを特定します。
- 利用するeラーニング教材・サービスが法定の科目・時間数を満たすか確認する:安全衛生特別教育規程に定められた科目をすべて含み、時間数も満たしているかを、教材の提供元(自社作成の場合は自社)に確認します。
- 本人確認・修了確認の方法を用意する:受講者本人であることの確認手段(顔写真付き身分証の提示、顔認証など)と、最後まで受講したことを確認する手段(視聴履歴、確認テストの合格など)を用意します。
- 実技を対面で実施する:学科をeラーニングで実施した場合でも、実技は自社の実技会場または外部の講習機関で対面で実施し、修了を確認します。
- 記録を作成し3年間保存する:受講者・科目・時間数・実施年月日・指導者・実施方法(eラーニングか対面か)などを記録し、労働安全衛生規則第38条に基づき実施日から3年間保存します。
注意点・誤解しやすいポイント
第一に、「eラーニングだから特別教育全体が簡略化される」という誤解です。学科をオンラインで受講できるようになったのは実施方法の選択肢が広がったためであり、法定の科目・時間数そのものが軽減されたわけではありません。実技を省略してよいという意味でもありません。
第二に、技能講習との取り違えです。特別教育は事業者自身が受講記録を作成・保存する前提の教育であり、登録教習機関が修了を証明する技能講習とは制度が異なります。技能講習のeラーニング活用については別の通達・ガイドラインで整理されており、特別教育とは要件が異なる場合があるため、両者を混同しないよう注意が必要です。
第三に、「動画を配信すればeラーニングとして認められる」という誤解です。受講者が実際に最後まで視聴・理解したことを確認する仕組み(視聴履歴の管理、理解度を確認するテストなど)がなければ、教育を実施したとは言いにくく、労働災害発生時や監督署対応の際に修了の事実を示せないおそれがあります。どのような教材・確認方法であれば要件を満たすといえるかは個別の判断が伴うため、対象業務の該当性や実施方法の適否については、所轄の労働基準監督署や登録教習機関・労働安全コンサルタント等の専門家にご確認ください。
記録の保存と、実施していなかった場合のリスク
特別教育を実施した際は、受講者・科目・時間数・実施年月日等の記録を作成し、労働安全衛生規則第38条に基づき3年間保存する義務があります。eラーニングで学科を実施した場合も、対面で実施した場合と同様に記録の作成・保存が必要です。
特別教育そのものを実施していなかった場合は労働安全衛生法第119条により6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となり得ます。また、記録の作成・保存を怠った場合は同法第120条により50万円以下の罰金の対象となり得ます。オンラインで実施したからこそ、誰がいつどの教材で受講し、いつ修了したかという記録がより重要になります。作業者が増えるほど、実施方法(eラーニングか対面か)まで含めて個別に把握するのは煩雑になるため、実施日と保存期限をまとめて管理できる仕組みを用意しておくと、監督署対応や元請への安全書類提出の際に慌てずに済みます。
まとめ
- 特別教育のうち学科はeラーニングで実施可能、実技は原則対面というのが基本的な考え方です(令和3年1月25日付け厚生労働省通達がベース)
- eラーニングで実施する場合も、業務ごとの法定の科目・時間数(安全衛生特別教育規程)は変わらず、時間数が短縮されるわけではありません
- 受講者の本人確認と、最後まで受講を修了したことの確認は、eラーニング実施における重要な要件です
- 記録の作成・3年間保存(労働安全衛生規則第38条)は、学科をオンラインで実施した場合も対面の場合も変わらず必要です
- 自社の作業者に必要な特別教育と時間数をまず把握したい方は、特別教育 要否チェッカーで確認するところから始めるのがおすすめです
なお、特別教育の受講記録や修了証、3年保存の管理を紙やExcelで個別に行うと、作業者が増えるほど抜け漏れに気づきにくくなります。こうした記録をクラウドでまとめて管理したい場合は、14日間の無料トライアル(クレジットカード不要)で/signupから試すこともできます。
よくある質問
Q. 特別教育の実技もeラーニングだけで済ませられますか。
原則としてできません。実技は、器具の点検・装着・操作や機械の運転操作などを実際に行い、正しい手順で実施できるかを講師がその場で確認する必要があるため、対面での実施が前提です。学科部分のみが、要件を満たすことを条件にオンライン実施の対象となります。
Q. eラーニングで学科を実施する場合、時間数は短縮されますか。
されません。安全衛生特別教育規程で定められた学科・実技の時間数は、実施方法にかかわらず同じです。たとえばアーク溶接等の業務であれば、学科をeラーニングで受講しても学科11時間分の内容を満たす必要があります。
Q. 自社で独自に作成した動画教材でも、特別教育の学科として認められますか。
法定の科目・時間数を満たし、受講者本人であることの確認や、最後まで受講を修了したことの確認(視聴履歴の管理、確認テストなど)ができる仕組みが備わっていれば、自社作成の教材を用いること自体は妨げられません。ただし、要件を満たしているかどうかの判断が難しい場合は、所轄の労働基準監督署や労働安全コンサルタント等の専門家にご確認ください。
Q. eラーニングで実施した特別教育の記録も、3年間保存する必要がありますか。
はい。実施方法が対面かeラーニングかにかかわらず、労働安全衛生規則第38条に基づき、受講者・科目・時間数・実施年月日等の記録を作成し、実施日から3年間保存する義務があります。
Q. 技能講習もeラーニングで受講できますか。
技能講習は登録教習機関が実施し修了証を交付する別の制度であり、特別教育とはeラーニング実施に関する要件・ガイドラインが異なります。技能講習のオンライン実施の可否や条件は、利用を検討している登録教習機関に直接ご確認ください。