教育の実施

特別教育を自社で実施するには?講師の要件と用意すべき記録・カリキュラム

運営・編集:安全教育台帳編集部

結論:講師の資格要件はないが、科目・時間と記録の作り方が実質のハードルになる

結論から言うと、特別教育を自社(社内)で実施すること自体は法律上まったく問題なく、講師について法令上の資格要件もありません。労働安全衛生法59条3項は「事業者は、危険又は有害な業務で厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行わなければならない」と定めるだけで、外部機関に委託せよとは書かれていません(e-Gov 労働安全衛生法)。

技能講習のように「都道府県労働局長の登録を受けた教習機関」でなければ実施できない、という縛りは特別教育にはありません。つまり、社内に該当業務の専門知識と実務経験を持つ従業員がいれば、その人を講師に立てて自社で完結させられます。

ただし「講師は誰でもよい」からといって省略してよい部分は一つもありません。実質的なハードルになるのは、①安全衛生特別教育規程(昭和47年労働省告示第92号)が業務ごとに定める科目・学科時間・実技時間を過不足なく満たすこと、②労働安全衛生規則38条にもとづき受講者・科目等の記録を作成し3年間保存することの2点です。この2つを欠いた「自社実施」は、講師の有無にかかわらず法令違反になり得ます。

なぜそうなるか:根拠条文と、対象業務ごとの学科・実技時間

特別教育の対象業務は労働安全衛生規則36条に列挙されています。フォークリフト運転(1トン未満)、アーク溶接、低圧・高圧の電気取扱い、玉掛け、高所作業車の運転、フルハーネス型墜落制止用器具を用いる業務など、削除された号を除いて現在59号にわたります(e-Gov 労働安全衛生規則)。

各業務の学科・実技の科目と時間数は、法律や規則の本文ではなく、安全衛生特別教育規程(昭和47年労働省告示第92号)という告示のほうに定められています(厚生労働省 法令データ)。自社実施では、このカリキュラムを守れているかどうかが監督署対応・元請の安全書類審査での最初のチェックポイントになります。

2026年時点の規定にもとづく代表的な業務の時間数は次のとおりです。

対象業務(安衛則36条)学科時間実技時間合計
アーク溶接等(3号)11時間10時間21時間
電気取扱い・低圧(4号)7時間7時間14時間
電気取扱い・高圧(4号)11時間15時間26時間
玉掛け・つり上げ荷重1t未満(19号)5時間4時間9時間
高所作業車・作業床の高さ10m未満(10号の5)6時間3時間9時間
フルハーネス型墜落制止用器具(41号)4.5時間1.5時間6時間

たとえば「アーク溶接の特別教育を自社で組む」場合、学科11時間+実技10時間の計21時間分を、規程が定める科目立てのとおりに実施し切る必要があります。1日数時間ずつ複数日に分けて実施すること自体は問題ありませんが、時間を切り詰めたり科目を省いたりすれば、たとえ受講記録を作っていても特別教育を「行った」ことにはなりません。

なお、対象業務は作業者ごとに異なるため、まず「誰にどの特別教育が必要か」を洗い出す作業が起点になります。自社の作業者に必要な特別教育を確認したい方は、特別教育 要否チェッカーで従事業務を選ぶと、必要な特別教育と学科・実技の時間、根拠となる号番号がまとめて確認できます。

自社で確認・対応する手順

自社実施を進める場合、次の順番で確認・準備すると抜け漏れを防ぎやすくなります。

  1. 対象業務の洗い出し:作業者ごとに、これから従事させる業務が安衛則36条のどの号に該当するかを確認する。該当する号を誤ると、必要な学科・実技時間そのものを取り違えます。
  2. カリキュラムの確定:該当号の学科・実技の科目名と時間数を、安全衛生特別教育規程の条文(または上表のような一次情報に基づく整理)で確定する。時間を四捨五入したり、近い業務の数値を流用したりしない。
  3. 講師の選任:該当業務について専門知識と実務経験を持つ従業員、または外部の専門家を講師として選ぶ。前述のとおり法令上の資格要件はありませんが、教える内容に責任を持てる人選が実質的な要件になります。
  4. 実技・設備の確保:実技時間がある業務(アーク溶接、玉掛け、フォークリフトなど)は、実際の機械・器具を使って実技を行える環境を用意する。座学だけで終わらせると規程違反になります。時間の見積もりも早めに立てておくと安心です。たとえばアーク溶接の対象者が3名いる場合、1人あたり学科11時間+実技10時間=21時間なので、3名分の教育時間は21×3=63時間ぶんを確保する計算になります。実技は機械・治具の台数によって同時に受講できる人数が限られるため、この時間数を踏まえて日程を組む必要があります。
  5. 実施と記録作成:実施後、受講者の氏名、業務の種類、科目、実施年月日、実施時間数などを記載した記録を作成する。様式は法定されていませんが、労働安全衛生規則38条が求める「受講者、科目等の記録」を満たす内容にする。
  6. 3年間の保存:作成した記録は3年間保存する。保存形式(紙・電子)の指定はありませんが、監督署の立入調査や元請からの安全書類提出要請にすぐ応じられる状態にしておく。

注意点・誤解しやすいポイント

自社実施でつまずきやすいのは、次のような取り違えです。

技能講習・免許との混同:特別教育で足りる業務と、技能講習や免許が必要な業務は、作業内容や機体重量・つり上げ荷重などの規模で線引きされています。たとえばフォークリフトは最大荷重1トン未満なら特別教育(安衛則36条5号)で足りますが、1トン以上は技能講習(安衛法76条・施行令20条11号)が必要で、こちらは登録教習機関でしか実施できません。特別教育のつもりで進めていた業務が実は技能講習の対象だった、という取り違えは自社実施でもっとも起こりやすい誤りです。

保存期間の誤解:安衛則38条の3年保存は「保存の下限」であり、上限や更新義務ではありません。3年経過後に記録を破棄してよいとは書かれておらず、実務上は退職者の記録も含めて長めに保存している事業者が多く見られます。また、特別教育そのものに法定の更新義務はなく、一度修了すれば同じ業務について再受講の義務は生じません(ここは、年度ごとに時間を積み上げる教育制度とは仕組みが異なる点です)。

実技の省略規定の誤適用:規程には、実務経験がある者について実技の一部または全部を省略できる旨の規定が業務ごとに置かれている場合がありますが、適用できる条件は業務・告示ごとに異なります。「経験者だから実技はなくてよい」と自己判断で省略すると、規程に沿っていない特別教育として扱われるおそれがあります。

対象業務の該当性や省略規定の適用など個別の取り扱いは、所轄の労働基準監督署や労働安全コンサルタント等の専門家にご確認ください。自社実施を進める前に、特別教育 要否チェッカーで対象業務と時間数を一度確認しておくと、カリキュラムの過不足に気づきやすくなります。

なお、実施後の記録・修了証・3年保存の管理を紙やExcelで続けると、誰の記録が保存期間中か、誰の教育がまだ未実施かの把握が煩雑になりがちです。安全教育台帳では、作業者ごとの受講記録と保存期限をクラウドで管理でき、14日間の無料トライアル(クレジットカード不要)で試せます。気になる方は無料トライアルの申し込みからご確認ください。

まとめ

  • 特別教育の自社実施は法令上可能で、講師に資格要件はない(安衛法59条3項)。
  • 実質的な要件は、安全衛生特別教育規程が定める科目・学科時間・実技時間を過不足なく満たすことと、安衛則38条にもとづく記録の作成・3年保存の2点。
  • 対象業務は安衛則36条に59号あり、まず作業者ごとに該当業務を洗い出すことが起点になる。
  • 技能講習・免許が必要な規模の業務を特別教育で済ませてしまう取り違えや、実技省略規定の誤適用に注意する。
  • 個別の該当性判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署や専門家に確認しつつ、自社の作業者に必要な特別教育を要否チェッカーで確認するところから始めるとよい。

よくある質問

Q. 特別教育の講師は外部の専門家に頼まないといけませんか?

いいえ。労働安全衛生法59条3項および関連規則には、特別教育の講師について資格要件の定めがなく、社内に該当業務の専門知識と実務経験を持つ従業員がいれば、その人を講師として自社で実施できます(e-Gov 労働安全衛生法)。

Q. 自社実施の場合、修了証は発行しなければなりませんか?

特別教育の修了証について、法定の様式や交付義務を定めた条文はありません。法令上義務づけられているのは、労働安全衛生規則38条にもとづく受講者・科目等の記録の作成と3年間の保存です。ただし、元請の安全書類提出や本人の携行資料として、修了証の形で記録を残す事業者が一般的です。

Q. 特別教育の記録は、どのような様式で作ればよいですか?

労働安全衛生規則38条は記録の作成・3年保存を義務づけていますが、様式そのものは法定されていません。実施者、受講者の氏名・所属、対象業務、受講科目、実施年月日、学科・実技の時間数などの基本事項を記載した記録であれば、自社で様式を用意してかまいません。

Q. アーク溶接の特別教育を自社で実施する場合、何時間必要ですか?

安全衛生特別教育規程にもとづき、学科11時間・実技10時間の合計21時間が必要です(安衛則36条3号)。時間を短縮したり科目の一部を省略したりすると、規程に沿った特別教育として認められないおそれがあります。

Q. 特別教育を実施しなかった場合、どのような罰則がありますか?

労働安全衛生法119条により、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となり得ます。また、実施した特別教育の記録を作成・保存しなかった場合も、同法120条により50万円以下の罰金の対象となり得ます。対象業務の該当性に迷う場合は、実施前に所轄の労働基準監督署にご確認ください。

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