電気自動車の整備に特別教育は要る? 令和6年改正で対象が広がった理由
「EV整備 特別教育」で検索してこのページに来た方は、自社の整備士やメンテナンス担当者を電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の整備業務に就かせるにあたり、「そもそも特別教育が必要なのか」「必要だとしたら学科・実技は何時間か」「記録はどう残せば監督署や元請への説明に足りるのか」を確認したいのではないでしょうか。この記事では、根拠条文と令和6年改正の内容を踏まえて、現場で何をすればよいかを整理します。
結論:対地電圧50Vを超える蓄電池を内蔵する自動車の整備は、電圧の上限なく特別教育の対象
結論から言うと、2026年時点の規定では、対地電圧が50ボルトを超える蓄電池を内蔵する自動車の整備業務は、蓄電池の電圧が高圧(750ボルト超)であるか低圧(750ボルト以下)であるかを問わず、労働安全衛生規則36条4号の2に基づく特別教育の対象です。学科6時間・実技1時間の計7時間を修了させる必要があります。
この「電圧の上限なし」という扱いは、令和6年10月1日施行の改正で変わった点です。改正前は「低圧(750ボルト以下)の蓄電池を内蔵する自動車」に限定されていたため、高圧の蓄電池を積む車種の整備は特別教育の対象外という抜け穴が生じていました。改正後はこの上限が撤廃され、高圧の蓄電池を積む電気自動車・ハイブリッド車の整備業務も漏れなく対象になっています(厚生労働省 労働政策審議会安全衛生分科会資料)。
根拠条文で確認する対象業務と学科・実技の時間数
特別教育そのものの義務は、労働安全衛生法59条3項「事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者を就かせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない」に基づきます(e-Gov法令検索 労働安全衛生法)。この「厚生労働省令で定める業務」を列挙しているのが労働安全衛生規則36条で、電気自動車等の整備業務は4号の2に定められています(e-Gov法令検索 労働安全衛生規則)。
改正前後の条文を比べると、対象範囲の変化が分かります。
| 改正前(〜令和6年9月30日) | 改正後(令和6年10月1日〜) | |
|---|---|---|
| 条文(則36条4号の2) | 対地電圧が50ボルトを超える低圧の蓄電池を内蔵する自動車の整備の業務 | 対地電圧が50ボルトを超える蓄電池を内蔵する自動車の整備の業務 |
| 対象となる電圧 | 50ボルト超・750ボルト以下(低圧)のみ | 50ボルト超であれば上限なし(高圧も対象) |
学科・実技の科目と時間数は、安全衛生特別教育規程(昭和47年労働省告示第92号)6条の2で定められています。改正により科目の範囲(高圧の電気の危険性や絶縁用防具の取扱いなど)は拡充されましたが、合計時間数は改正前後で変わらず次のとおりです。
| 区分 | 科目 | 時間 |
|---|---|---|
| 学科 | 電気に関する基礎知識 | 1時間 |
| 学科 | 電気装置に関する基礎知識 | 2.5時間 |
| 学科 | 安全作業用具に関する基礎知識 | 0.5時間 |
| 学科 | 電気自動車等の整備作業の方法 | 1時間 |
| 学科 | 関係法令 | 1時間 |
| 実技 | 電気自動車等の整備作業の方法 | 1時間 |
学科5科目の合計6時間に実技1時間を加えた計7時間が、電気自動車等の整備業務に必要な特別教育の総時間です。参考までに、同じく電気を扱う業務でも、通常の低圧電気取扱業務(感電または切断のおそれのある充電電路の敷設や修理など。電気自動車等の整備は除く)は学科7時間・実技7時間の計14時間と定められており、時間配分がかなり異なります。自社の作業者が従事している業務からどの特別教育が必要かをまとめて確認したい方は、特別教育 要否チェッカーで対象業務を選ぶと、該当する教育と根拠の号を一覧で確認できます。
自社で確認・対応する手順
実務では、次の順番で確認すると過不足を防ぎやすくなります。
- 対象となる車種・業務の洗い出し:整備対象の車両が対地電圧50ボルト超の蓄電池を内蔵しているかは、車両の整備要領書やメーカー公表の仕様情報で確認します。駆動用蓄電池を扱わない範囲の整備(タイヤ交換や外装の作業など)のみであれば対象外となる場合もあるため、業務の実態に即した切り分けが必要です。
- 未受講者の洗い出し:対象業務に現に就いている、または今後就かせる予定の整備士・作業者のうち、特別教育を修了していない人を特定します。
- 受講の手配:日本自動車整備振興会連合会(整備振興会)や登録教習機関等が実施する講習を利用するか、安全衛生特別教育規程に沿った科目・時間数で社内教育を実施します。
- 記録の作成と3年保存:受講者・科目・実施日時・修了状況などを記録し、労働安全衛生規則38条に基づき3年間保存します(e-Gov法令検索 労働安全衛生規則)。元請への安全書類提出や監督署対応では、この記録の提示を求められることがあります。
- 配置転換のたびの再確認:異動や新規配属のたびに、配属先の業務が対象かどうかを都度確認します。
注意点・誤解しやすいポイント
現場で特に混同しやすいのは、次の3点です。
- 「低圧電気取扱業務」の特別教育とは別科目:通常の低圧電気取扱業務の特別教育(学科7時間・実技7時間)は、電気自動車等の整備業務を除いて実施されるものです。「低圧の電気取扱いを受講済みだからEV整備も大丈夫」という理解は誤りで、電気自動車等の整備には別途36条4号の2の特別教育が必要です。
- 技能講習・資格とは異なる:電気自動車等の整備業務に必要なのは特別教育であり、就業制限業務のような技能講習・免許(安衛法61条・施行令20条)ではありません。実施主体や修了証の扱いが異なるため、資格台帳と受講記録を混同しないよう管理することが重要です。
- 改正前の受講歴だけでは不十分な場合がある:令和6年9月までに低圧の蓄電池を前提とした特別教育を受けた人が、高圧の蓄電池を内蔵する車種の整備に新たに就く場合、改正後の科目(高圧の危険性や絶縁用防具など)をカバーできているかどうかは事業場ごとに確認が必要です。対象業務の該当性や経過措置の適用など個別の取り扱いは、所轄の労働基準監督署や登録教習機関・労働安全コンサルタント等の専門家にご確認ください。
受講状況を人・業務単位で突き合わせて確認したい場合は、特別教育 要否チェッカーで必要な教育を洗い出したうえで、実際の受講記録と照らし合わせてみることをおすすめします。受講記録・修了証・3年保存をまとめてクラウドで管理したい場合は、14日間の無料トライアル(クレジットカード不要)で安全教育台帳を試すこともできます。
まとめ
- 対地電圧50ボルトを超える蓄電池を内蔵する自動車の整備業務は、低圧・高圧を問わず労働安全衛生規則36条4号の2の特別教育の対象(令和6年10月1日施行の改正で電圧の上限が撤廃)。
- 必要な時間数は学科6時間・実技1時間の計7時間(安全衛生特別教育規程6条の2)。
- 通常の低圧電気取扱業務の特別教育(学科7時間・実技7時間)とは別科目であり、受講の取り違えに注意する。
- 受講記録は労働安全衛生規則38条に基づき3年間保存し、元請・監督署対応に備える。
- 対象業務の該当性や経過措置の扱いに迷う場合は、自己判断せず所轄の労働基準監督署や専門家に確認する。
よくある質問
Q. ハイブリッド車(HV・PHV)の整備も対象になりますか?
対象になります。厚生労働省の資料では「電気自動車等」を電気自動車およびハイブリッド車を指すものとして扱っており、対地電圧50ボルトを超える駆動用蓄電池を内蔵する車両であれば、動力源がエンジンとモーターの併用であっても特別教育の対象です(厚生労働省 労働政策審議会安全衛生分科会資料)。
Q. 50ボルト以下の蓄電池を積む車両の整備は特別教育が不要ですか?
労働安全衛生規則36条4号の2は「対地電圧が50ボルトを超える蓄電池を内蔵する自動車」を対象としているため、条文上は50ボルト以下であれば本号の対象外です。ただし、作業内容によって別号の特別教育(低圧電気取扱業務など)に該当する可能性もあるため、対象車両の電圧仕様と作業内容をあわせて確認することをおすすめします。
Q. 低圧電気取扱業務の特別教育を受けていれば、EV整備の特別教育は省略できますか?
省略できません。低圧電気取扱業務の特別教育は電気自動車等の整備業務を除いて実施される別科目であり、両者は対象とする危険性・作業手順が異なります。電気自動車等の整備に就かせる場合は、36条4号の2に対応する特別教育(学科6時間・実技1時間)を別途修了させる必要があります。
Q. 受講記録はどのくらいの期間、何を残せばよいですか?
労働安全衛生規則38条により、特別教育の受講者・科目・実施日時などの記録を作成し、3年間保存することが義務づけられています。未実施の場合は労働安全衛生法119条、記録に関する違反は120条の罰則(50万円以下の罰金)の対象となり得ます。保存期間や記載事項の詳細は、所轄の労働基準監督署にも確認しておくと安心です。