酸欠・硫化水素の危険がある現場、特別教育は「第1種」と「第2種」どちらが必要か
マンホールやピット、タンクの内部作業などを控え、「酸欠の特別教育が要るらしいが、第1種と第2種のどちらを受けさせればよいのか」「学科は何時間で、実技もあるのか」「記録はどう残せば元請の安全書類や監督署対応に足りるのか」と迷っていませんか。この記事では、労働安全衛生法・労働安全衛生規則・酸素欠乏症等防止規則の条文と一次情報に基づいて、第1種・第2種の違いと対象作業場所、必要な教育時間、記録・保存の実務までを整理します。
結論:酸素欠乏危険作業に就かせる前は、区分に応じた特別教育が必須
結論から言うと、労働安全衛生法施行令別表第六に掲げる酸素欠乏危険場所(マンホール・ピット・タンク内部など)での作業に労働者を就かせる事業者は、その作業が硫化水素中毒のおそれもある「第2種」に当たるか、それ以外の「第1種」に当たるかを見極めたうえで、区分ごとに定められた特別教育を修了させなければなりません。これは労働安全衛生法第59条第3項を根拠に、労働安全衛生規則第36条第26号が個別に指定している業務です。
区分は次のとおりです。
- 第1種酸素欠乏危険作業:酸素欠乏危険作業のうち、第2種以外の作業(酸素欠乏症のおそれはあるが、硫化水素中毒のおそれは想定されていない場所)
- 第2種酸素欠乏危険作業:施行令別表第六の第三号の三・第九号・第十二号に掲げる場所のうち、酸素欠乏症にかかるおそれと硫化水素中毒にかかるおそれの両方がある場所として厚生労働大臣が定める場所での作業(し尿槽・汚水槽・下水道管きょ内部など)
この定義は酸素欠乏症等防止規則第2条に置かれており、第2種は第1種よりも対象が限定される代わりに、危険性が高い分だけ教育時間も長く設定されています。
自社の作業がどちらの区分に当たるかを含め、必要な特別教育を業務単位で確認したい場合は、特別教育の要否チェッカーで対象業務を選ぶと、学科・実技の時間数と根拠となる号番号がまとめて表示されます。
対象となる作業場所と、区分ごとの学科時間(根拠条文つき)
対象作業場所(施行令別表第六)
酸素欠乏危険作業とは、労働安全衛生法施行令別表第六に掲げる「酸素欠乏危険場所」における作業を指します(酸素欠乏症等防止規則第2条第6号)。代表的な場所としては、し尿・汚泥・汚水など腐敗・分解しやすい物質を入れてある(または入れたことのある)槽・タンク・管・暗きょ・マンホール・溝・ピットの内部、海水が滞留する(または滞留したことのある)熱交換器・管・暗きょ・マンホール・溝・ピットの内部、相当期間密閉されていた鋼製のボイラー・タンク・反応塔・船倉など内壁が酸化されやすい施設の内部が挙げられます。製造業の設備内部作業だけでなく、下水道・浄化槽の維持管理、船舶の船倉内作業、建設現場の埋設管・ピット内作業など、業種を横断して該当し得る点に注意が必要です。
このうち、酸素欠乏症等防止規則第2条第7号・第8号により、施行令別表第六の第三号の三・第九号・第十二号に掲げる場所(し尿槽・汚水槽・下水道管きょ内部等、硫化水素中毒のおそれもあるとして厚生労働大臣が定める場所)における作業が「第2種酸素欠乏危険作業」、それ以外の酸素欠乏危険作業が「第1種酸素欠乏危険作業」とされています。
区分ごとの学科時間(酸素欠乏危険作業特別教育規程)
学科・実技の時間は、酸素欠乏危険作業特別教育規程(昭和47年労働省告示第132号)の第1条・第2条が区分ごとに定めています。両区分とも実技科目の規定はなく、学科のみです。
| 区分 | 科目 | 時間 |
|---|---|---|
| 第1種(第1条) | 酸素欠乏の発生の原因 | 30分 |
| 第1種(第1条) | 酸素欠乏症の症状 | 30分 |
| 第1種(第1条) | 空気呼吸器等の使用の方法 | 1時間 |
| 第1種(第1条) | 事故の場合の退避及び救急そ生の方法 | 1時間 |
| 第1種(第1条) | その他酸素欠乏症の防止に関し必要な事項 | 1時間 |
| 第1種 合計 | 4時間 | |
| 第2種(第2条) | 酸素欠乏等の発生の原因 | 1時間 |
| 第2種(第2条) | 酸素欠乏症等の症状 | 1時間 |
| 第2種(第2条) | 空気呼吸器等の使用の方法 | 1時間 |
| 第2種(第2条) | 事故の場合の退避及び救急そ生の方法 | 1時間 |
| 第2種(第2条) | その他酸素欠乏症等の防止に関し必要な事項 | 1時間30分 |
| 第2種 合計 | 5時間30分 |
つまり、第1種は学科4時間、第2種は硫化水素の危険が加わる分だけ学科5時間30分+実技0時間(実技科目の定めなし)となります。本サイトの要否チェッカーに収録している他業務と並べると、低圧電気取扱いは学科7時間+実技7時間で計14時間、フルハーネス型墜落制止用器具の使用は学科4.5時間+実技1.5時間で計6時間ですから、酸欠の特別教育は実技科目こそありませんが、学科だけで見れば決して短い部類ではありません。1人あたりの学科時間が第2種で5.5時間の場合、これから対象作業に配置する作業者が4人いれば、5.5×4=22時間分の学科教育を確保する必要があります。
なお、酸素欠乏危険作業の作業主任者(作業場所ごとの選任が義務)には、第1種は酸素欠乏危険作業主任者技能講習、第2種は酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習の修了者を充てる必要があり(酸素欠乏症等防止規則)、これは労働者本人が受ける特別教育とは別の資格制度です。区別の詳細は次の「注意点」で解説します。
自社で確認・対応する手順
- 対象作業の洗い出し:マンホール・ピット・タンク・槽・配管の内部に人が立ち入る作業がないか、製造・建設・物流・下水道関連の現場を横断的に確認します。日常点検や清掃・修繕のための一時的な立ち入りも対象になり得ます。
- 第1種・第2種の判定:立ち入る場所が施行令別表第六のどの号に当たるか、特に第三号の三・第九号・第十二号(し尿槽・汚水槽・下水道管きょ等)に該当し硫化水素中毒のおそれがあるかを確認します。自己判断が難しい場合は、次の注意点も踏まえて専門家に相談してください。
- 未受講者の特定:対象作業に従事させる(または今後従事させる予定の)作業者のうち、区分に応じた特別教育を修了していない人を洗い出します。
- 特別教育の実施・受講:自社での実施が難しい場合は、労働基準協会や登録教習機関等が開催する酸素欠乏・硫化水素危険作業特別教育の講習を受講させます。
- 記録の作成・保存:教育を行ったときは、受講者名・区分(第1種/第2種)・科目・実施日等を記録し、安衛則第38条に基づき3年間保存します。
- 元請・監督署対応への備え:建設・設備工事の現場では、元請から安全書類の一環として受講記録の提出を求められることがあります。区分ごとに受講状況が一覧できる形で管理しておくと、提出や労働基準監督署の調査にも対応しやすくなります。
自社の作業者にどの特別教育が必要かをまとめて確認したい場合は、特別教育の要否チェッカーを使うと、対象業務の選択だけで学科・実技の時間数と根拠の号番号を確認できます。
注意点・誤解しやすいポイント
特別教育と「作業主任者」の技能講習は別制度:労働者本人が受ける特別教育(学科のみ・4時間または5.5時間)と、作業場所ごとに選任する酸素欠乏危険作業主任者の技能講習(安衛法第14条・施行令第6条)は、対象者も教育内容もまったく別の制度です。作業主任者の技能講習を修了した人がその場にいれば、他の作業者の特別教育が不要になるわけではありません。両方が必要な現場が多い点に注意してください。
「3年保存」は保存義務の下限であって更新期限ではない:安衛則38条の3年保存は、記録を最低限いつまで残すかという下限の規定です。特別教育そのものに法定の更新義務はなく、3年が経過したら再教育が必要になるという意味ではありません。保存期間が過ぎた記録を破棄してよいという規定であり、「3年ごとに受け直す」義務ではない点を混同しないよう注意が必要です。
第1種・第2種の判定を誤ると教育内容が不足する:第2種に当たる作業場所で第1種の教育(学科4時間・硫化水素に関する科目を含まない)しか受けさせていない場合、必要な特別教育を実施したことになりません。判定に迷う作業場所(特に汚水槽・下水道関連施設)は、自己判断で済ませず確認することが重要です。
省略規定の適用は個別判断:安全衛生特別教育規程には、他の教育・資格の受講状況に応じて科目の一部を省略できる規定が置かれている場合があります。対象業務の該当性や省略規定の適用可否など個別の取り扱いは、所轄の労働基準監督署や労働安全コンサルタント等の専門家にご確認ください。
作業者ごとの受講区分(第1種・第2種)や3年保存の記録を紙やExcelで管理していると、誰がどちらの区分をいつ受講したか、保存期間が近づいている記録がどれかを追いにくくなりがちです。無料トライアル(14日間・クレジットカード不要)では、作業者と受講記録をクラウド上で一元管理できるため、関心があれば/signupから試すことができます。
まとめ
- 酸素欠乏危険場所(マンホール・ピット・タンク内部等)での作業は、硫化水素中毒のおそれもある「第2種」か、それ以外の「第1種」かで必要な特別教育が異なります(酸素欠乏症等防止規則第2条)。
- 学科時間は第1種が4時間、第2種が5時間30分で、いずれも実技科目の定めはありません(酸素欠乏危険作業特別教育規程(告示第132号)第1条・第2条)。
- 根拠は安衛法第59条第3項と安衛則第36条第26号。未実施は第119条の罰則(50万円以下の罰金)の対象になり得ます。
- 作業場所ごとに選任する作業主任者の技能講習は、労働者本人の特別教育とは別の制度です。
- 教育を行ったら受講者・区分・科目・実施日を記録し、安衛則第38条に基づき3年間保存します。
- 自社の該当作業を確認したい場合は、特別教育の要否チェッカーから始めるとよいでしょう。
よくある質問
Q. 酸素欠乏の特別教育は、第1種と第2種のどちらか一方だけ受ければよいのですか。
労働者が実際に従事する作業場所の区分に応じた特別教育を受ける必要があります。第2種に当たる作業(し尿槽・汚水槽・下水道管きょ等、硫化水素中毒のおそれもある場所)に従事させる場合は、第2種の特別教育(学科5時間30分)が必要で、第1種の教育だけでは足りません(酸素欠乏症等防止規則第2条)。
Q. 実技講習は必要ありませんか。
酸素欠乏危険作業特別教育規程第1条・第2条には実技科目の定めがなく、学科のみで構成されています。ただし、空気呼吸器等の使用方法など実践的な内容も学科の科目に含まれています。
Q. 特別教育を受けた作業者がいれば、作業主任者は不要ですか。
不要にはなりません。酸素欠乏危険作業を行う場所ごとに、酸素欠乏危険作業主任者技能講習(第1種)または酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習(第2種)を修了した作業主任者を別途選任する義務があります。特別教育と作業主任者の技能講習は対象者も内容も異なる別制度です。
Q. 特別教育を実施しないまま作業させてしまった場合、罰則はありますか。
労働安全衛生法第59条第3項の義務に違反した場合、同法第119条により50万円以下の罰金の対象となり得ます。記録の未作成・未保存についても同法第120条が罰則を定めています。
Q. 自社の作業場所が第1種・第2種のどちらに当たるか判断が難しい場合はどうすればよいですか。
施行令別表第六の該当号や、硫化水素中毒のおそれの有無についての判断は、作業場所の実際の状況によって異なります。自己判断で済ませず、所轄の労働基準監督署や労働安全コンサルタント等の専門家にご確認ください。