記録・保存

外国人労働者への特別教育|言語の壁と「理解させた」ことを残す記録

運営・編集:安全教育台帳編集部

外国人労働者にも特別教育は必要です。結論から言うと「言語」は免除理由になりません

技能実習生や特定技能の外国人労働者を現場に配置する際、「日本語が十分でないから、まず簡単な作業から」と考える管理者は少なくありません。しかし結論から言うと、特別教育(危険・有害業務に就かせる前に事業者が行う法定の教育)の義務は、国籍や日本語の習熟度にかかわらず同じです。日本人労働者と同じ対象業務・同じ学科・実技の時間数を修了させなければ、その業務に就かせることはできません。問題は「教育を省略できるか」ではなく、「言語の壁があっても、法律が求める水準まで理解させ、それを記録として残せるか」です。本記事では、根拠条文と時間数の具体例、自社で確認すべき手順、記録の残し方までを整理します。

なぜ「日本語が苦手だから後回し」が許されないのか

事業者が労働者を雇い入れる際、および作業内容を変更する際に安全衛生教育を行う義務は、労働安全衛生法59条第1項・第2項に定められています。さらに、労働安全衛生規則36条に列挙された危険・有害業務に労働者を就かせる場合は、同法59条第3項に基づき、その業務ごとに定められた特別教育を修了させなければなりません。この義務は労働者の国籍や言語能力によって軽減される規定がなく、技能実習生・特定技能労働者・技術実習とは関係のない一般の外国人労働者であっても、日本人労働者と全く同じ対象業務・同じ時間数の教育が必要です。

一方で、教育を「行った」という形だけでは法律が求める水準を満たしません。厚生労働省が外国人労働者の雇用管理について事業主に求める指針(外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針)は、安全衛生の確保について、労働安全衛生法などの関係法令を遵守した上で、外国人労働者がその内容を理解できる方法で安全衛生教育を実施するよう事業主に求めています。厚生労働省・都道府県労働局等が公表している「外国人労働者安全衛生管理の手引き」でも、日本語の理解が不十分であることに伴うコミュニケーション不足が外国人労働者に特有のリスク要因として挙げられており、母国語や視聴覚教材を用いるなど、本人が理解できる方法での実施が呼びかけられています。つまり、「教育を実施した」という記録だけでなく「理解させた」ことまで示せる状態にしておくことが、外国人労働者への特別教育で問われる実務上のポイントです。

自社の作業者がどの特別教育の対象業務に当たるのかをまず確認したい方は、特別教育 要否チェッカーで従事業務を選ぶと、必要な特別教育と学科・実技の時間、根拠となる号番号が確認できます。

業務ごとの学科・実技の時間数は日本人労働者と同じ

特別教育の科目・時間数は、安全衛生特別教育規程(昭和47年労働省告示第92号)で業務ごとに定められています。国籍による違いはなく、外国人労働者であっても同じ時間数の学科・実技を修了させる必要があります。代表的な業務の例は以下のとおりです(2026年時点の規定。安衛則36条の号番号は労働安全衛生規則36条に基づく)。

対象業務(安衛則36条)学科実技合計
アーク溶接等の業務(3号)11時間10時間21時間
低圧の電気取扱い(4号)7時間7時間14時間
玉掛け(つり上げ荷重1t未満・19号)5時間4時間9時間
高所作業車(作業床の高さ10m未満)の運転(10号の5)6時間3時間9時間
フルハーネス型墜落制止用器具を用いた業務(41号)4.5時間1.5時間6時間

例えば技能実習生にアーク溶接の業務を担わせる場合、学科11時間+実技10時間=計21時間を修了させなければ、その業務に就かせることはできません。同様にフルハーネス型墜落制止用器具を用いた業務では学科4.5時間+実技1.5時間=計6時間が必要です。「日本人より少ない時間でよい」「口頭で注意すれば実技の一部は省略できる」といった取り扱いはなく、学科・実技ともに規定の時間を満たす必要があります。

実技の講義・演習を母国語の通訳を介して行うこと自体は否定されていませんが、実技を本人が理解し、安全に遂行できる水準まで到達していることが前提です。言葉が通じていない状態で時間だけ消化しても、特別教育を「修了した」とは言えません。

例えば、低圧の電気取扱いの業務に新たに配置する外国人労働者が5人いる場合、1人あたりの教育時間は学科7時間+実技7時間=14時間ですから、必要な延べ教育時間は 14×5=70(時間)という計算になり、この70時間分の講師・会場・通訳の確保が必要です。日本人労働者と混合のクラスで一斉に行えば時間は圧縮できますが、理解度の確認は個別に行う必要があります。

自社で確認・対応する手順

  1. 対象業務の洗い出し:外国人労働者に担わせる予定の業務が、安衛則36条の対象業務に当たるかを確認します。要否チェッカーで業務を選ぶと、必要な特別教育の有無と学科・実技の時間を確認できます。
  2. 実施言語・教材の検討:本人の母国語、または本人が十分に理解できる言語で実施できるかを確認します。厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」には、日本語教材に加えて複数の外国語版教材が掲載されており、こうした教材の活用も一つの方法です。社内に対応できる講師がいない場合は、通訳を同席させるか、外部の教育機関への依頼を検討します。
  3. 理解度の確認:講義後に簡単な確認テストや口頭での質疑を行い、本人が内容を理解した上で修了したことを確認します。理解度確認を行った事実も、記録に残しておくと後日の説明がしやすくなります。
  4. 記録の作成・保存:特別教育を行った事業者は、労働安全衛生規則38条に基づき、受講者・科目・時間・実施日等の記録を作成し、3年間保存しなければなりません。外国人労働者についても、使用した言語や教材、通訳の有無を記録に残しておくと、後日「理解させた」ことの説明材料になります。
  5. 元請・監督署対応への準備:建設業などで元請に安全書類を提出する場合や、労働基準監督署の調査が入った場合に備え、記録をいつでも提示できる状態にしておきます。

特別教育の受講記録や修了証を一人ひとり・業務ごとに管理し、3年保存の期限が近づいている記録を確認したい場合は、14日間の無料トライアル(クレジットカード不要)でクラウド管理を試すこともできます。詳しくは無料トライアルの申し込みから確認してください。

注意点・誤解しやすいポイント

  • 技能講習・免許との混同:特別教育が必要な業務の一部は、規模や能力によって技能講習・免許が必要な業務に切り替わります(例:つり上げ荷重1t以上のクレーンは免許、1t以上の玉掛けは技能講習)。「特別教育さえ受けていれば足りる」と思い込んで、本来必要な技能講習・免許を欠いたまま就業させてしまうケースがあるため、業務の規模を都度確認する必要があります。
  • 保存期間の誤解:記録の3年保存は保存義務の下限であり、「3年経過したら即時に業務を外す」「3年経てば教育が無効になる」という意味ではありません。特別教育そのものに法定の更新義務はなく、業務ごとに一度修了すれば、同じ業務に継続して就かせることができます。
  • 実技の省略規定の誤適用:特別教育規程の一部には、他の資格・経験を有する者について科目の一部を省略できる規定がありますが、これは限定的な条件下でのみ適用されるものです。外国人労働者であることを理由に安易に実技を省略することは認められません。
  • 通訳任せにしない:通訳を介して教育を行う場合でも、記録上は「誰が、いつ、どの言語・方法で教育し、本人が理解したことをどう確認したか」まで残しておくことが望まれます。通訳者の氏名や使用した教材名も記録に含めておくと安心です。

対象業務の該当性や省略規定の適用など個別の取り扱いは、所轄の労働基準監督署や労働安全コンサルタント等の専門家にご確認ください。言語面での対応方法について判断が難しい場合も、登録教習機関に相談すると、外国語対応のコースを案内してもらえることがあります。

まとめ

  • 特別教育の義務は国籍・日本語の習熟度に関わらず同じで、外国人労働者であっても日本人労働者と同じ対象業務・同じ学科・実技の時間数を修了させる必要があります(安衛法59条3項・安衛則36条)。
  • 厚生労働省の指針や手引きは、本人が理解できる言語・方法での実施を求めており、「実施した」だけでなく「理解させた」ことまで示せる状態が実務上重要です。
  • 学科・実技の時間数は業務ごとに定められており(例:アーク溶接21時間、低圧電気取扱い14時間)、言語を理由に時間を短縮することはできません。
  • 記録は受講者・科目・時間・実施日等を安衛則38条に基づき3年間保存する必要があり、使用言語や通訳の有無も残しておくと後日の説明に役立ちます。
  • まずは特別教育 要否チェッカーで自社の対象業務を確認し、記録の管理方法を見直すところから始めてみてください。

よくある質問

Q. 技能実習生にも特別教育は必要ですか。

必要です。技能実習生、特定技能労働者、その他在留資格を持つ外国人労働者であっても、安衛則36条の対象業務に就かせる場合は、日本人労働者と同じ特別教育を修了させる義務があります(労働安全衛生法59条3項)。在留資格の種類によって教育義務が軽減される規定はありません。

Q. 母国語で教育をしないと法律違反になりますか。

特別教育そのものを日本語以外の言語で実施することを直接義務付ける条文はありませんが、厚生労働省の指針や手引きは、本人が理解できる方法で安全衛生教育を実施するよう事業主に求めています。言葉が通じない状態で講義だけを行い、内容を理解させられていない場合、実質的に教育を修了したとは言えないおそれがあります。対応方法に迷う場合は、所轄の労働基準監督署にご確認ください。

Q. 特別教育を行わずに外国人労働者を危険業務に就かせた場合、どうなりますか。

特別教育を行わずに安衛則36条の対象業務に就かせた場合、労働安全衛生法119条に基づき罰則の対象となり得ます。また、教育を行った場合でも記録を作成・保存していない場合は、安衛則38条の記録義務違反として労働安全衛生法120条の罰則対象となるおそれがあります。

Q. 通訳を介して特別教育を行っても問題ありませんか。

通訳を介して実施すること自体は否定されていません。ただし、実技を含め本人が内容を理解し、安全に業務を遂行できる水準まで到達していることが前提です。通訳者の氏名や使用した教材、理解度の確認方法を記録に残しておくと、後日の説明がしやすくなります。

Q. 元請から外国人労働者の安全教育記録の提出を求められた場合、何を示せばよいですか。

受講者名・対象業務・学科・実技の時間・実施日・講師名など、安衛則38条に基づく記録事項を示します。外国人労働者については、使用した言語や教材、通訳の有無も合わせて記録しておくと、元請や監督署への説明がより明確になります。

この記事の内容をツールで確かめる

要否チェッカーで必要な特別教育を確認する →

特別教育は一度きり。手間になるのは、そのあと3年の保存です

安全教育台帳は、実施した特別教育を作業者ごとに記録して受講履歴として積み上げ、 安衛則38条の3年保存が満了に近づく記録を先に知らせます。記録簿・修了証・有資格者名簿の 出力まで、作業者の入退社をまたいで1つの台帳にまとまります。

無料ではじめる(登録のみ)

参考にした一次情報

関連記事